正常体重でのダイエットの危険性

 3. 若年からのカロリー制限の危険性
 
  正常体重でカロリー制限を行い、痩せすぎに陥ると、おばあさんになってから骨がもろくなる、子どもを産むときに良くない、などの指摘は「寿命」や「生命」に直接結びつかないため、どうしても軽視されがちです。しかも、現代のようにこれだけ「食べただけ食べて」太った場合の危険性が喧伝されは、痩せすぎの方が、健康的に感じて当然です。
 しかし「食べたいだけ食べる」ことが悪いのは中高年に限定される可能性が「アカゲザル」研究で分かってきました。
 カロリー制限(食べたいだけ食べさせないこと)は年齢上昇とともに生ずる種々の障害を遅らせる効果、アンチエイジング効果があるとされ、寿命の短いげっ歯類の研究では、まさにその通りでした22)
 一方、寿命が長く人間に近い霊長類を対象とした研究では、カロリー制限のアンチエイジング効果の結果が分かれていたのです。

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               図6 カロリー制限と寿命

 カロリー制限のアンチエイジング効果を証明しようと、1987年から米国の国立加齢研究所(National Institute on Aging)、1989年からウィスコンシン大学(University of Wisconsin)で、「アカゲザル」を対象に、好きなだけ食べさせる群と、それよりも摂取カロリー量を2〜3割減らした群に分け生存率を比較しました。その結果、ウィスコンシン大学ではカロリー制限群の生存率が高かったのに対し23)、国立加齢研究所ではカロリー制限の効果が認められませんでした24)。両研究を付き合わせて検討すると、カロリー制限開始の年齢に違いがありました。ウィスコンシン大学ではカロリー制限開始年齢が7〜15歳(猿の大人の年齢)なのに対し、国立加齢研究所は1〜23歳と幅広かったのです。そこで2015年までの国立加齢研究所のデータ(開始後28年も経っていますね)を、実験開始時のアカゲザルの年齢によって若年開始群(1〜14歳)と中高年開始群(16〜23歳)に分けて解析しました。すると、中高年で始めた場合は効果がみられ、研究期間のどの時点でも対照群の死亡率はカロリー制限中高年開始群の約2倍でした。一方で、国立加齢研究所のカロリー制限若年開始群(図6の下のグラフ)では寿命が延びる効果が認められなかっただけではなく、80%の死病率には対照群よりカロリー制限若年開始群の方が早く到達し、統計学有意に達していないものの雌群ではより明確でした25)。それは、ウィスコンシン大学の雌群と比較すると明確です(図6の上のグラフ)。
 この論文はオープンアクセスになっておりますので、英語が得意な方は、ご自身で読んでみてください。アカゲザルの寿命は長く、この30年に及ぶ研究でも若年開始群の38%がまだ生存しており、結論には達していません。しかし、「中高年」で「食べられるだけ、食べてしまうのは良くない」のは当然ですが、「若年」からカロリー制限を始めることは「悪影響」の可能性があることを「アカゲザル」の研究が示しています25)